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みがわり | 青山七恵

駆け出し作家の律は、
自分と瓜二つの
亡き女性の伝記を書くことに。
だが、辿り着いた真実によって
窮地に追い詰められていく――。


古本屋さんの一番目立つ棚に置かれていた本の帯の文言に惹かれて、青山七恵さんの『みがわり』を購入しました。


「自分と瓜二つの亡き女性の伝記を書く」って状況が珍妙すぎるし、それによって追い込まれる窮地とは一体………?

夢中で読んで、その後我慢できずにもう一回読み直してしまったほどおもしろい作品だったので、今日はその感想を記したいと思います。

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物語の主人公は、さっき帯の記述で触れた通り、駆け出し作家の律です。

この律って人がちょっと変。

それに加えて、相手につけ込まれる隙と変な好奇心があるもんだから、ある日自分のファンだと名乗って現れた女性・九鬼梗子に「あなたと瓜二つの亡き姉のお話を書いてほしい」と依頼されてからというもの、どんどん変な事態に巻き込まれていきます。

上品な奥様然とした梗子、その夫で見目麗しい青磁(私はディーン・フジオカさんを連想しました)、二人の一人娘で聡明かつちょっと強気な美少女・沙羅。

ものすごいフィクション臭のする一家じゃないですか?

まともに感じられる登場人物が見当たらなくて、「この物語ほんとにどうなっちゃうの」と思いました。

最初からうっすら不気味なんですが、九鬼家の律に対するえもいわれぬ侵食が進行するにつれて、だんだんその濃度が濃くなって、帯に書いてあった「窮地」の描写なんかただの悪夢でしたよ…。

そして、「窮地」を経ての結末が、実に衝撃的で見事。

お話の中で「何これ、今何を読まされてるの?」「何か変だな」と思ったら、その部分は作家である律の創作部分でしたというギミックがところどころ使われていたんですが、それが上手く効いていましたね。

遠回しな言い方でごめんなさい………。

YOASOBIの音楽って、原作知らずに聴くのと原作知って聴くのとでは聴こえ方の密度が違うじゃないですか?

それと同じで、結末を知らない初読と結末を知ってからの再読では全然印象が変わってしまう作品だと思うので、これから読まれる方のためにネタバレはしません。

ただ、ふんわり言及させてもらうと、最初は不気味で、終盤にかけては意味がわからないところも多く(それがまた怖い)、怒涛のラストに押し切られるようにして、ただ混乱の中で読み終えるしかなかったのが、読み直した時には、「あ~~ここはそういうことか」と理解できたり、「『自分』という存在の頼りなさ」についてしみじみ考えさせられたり、何より「不気味な物語」ではなく「姉妹の物語」なんだと納得することができました。

気になる方はぜひ~。

【追記】

終始不気味なトーンの物語なんですが、ぷっと吹き出してしまうような会話やシーンがいくつもあって秀逸でした。

青山七恵さんのお笑いセンス、好きだなと思いました、笑。