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とわの庭 | 小川糸

帰って来ない母を
〈とわ〉は一人で
待ち続ける。


小川糸さんの『とわの庭』。

母親が出奔し、盲目の少女が一人置き去りにされるお話だとは知っていました。

過酷な物語にちがいないけれど、可愛らしい装丁がとわの人生には光があると裏づけてくれているようで、そんなとわの人生を小川糸さんがどんな風に掬い上げているのか気になって、本を手に取りました。


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物語は、母親がとわに優しく詩を読み聞かせるシーンから始まります。

「とわは、お母さんにとってえいえんの愛だから、とわって名前にしたのよ」
「とわ、お母さん、とわに大好き」

と言葉を交わし合う二人を見て、この母娘はたしかに愛し合っているんだな、と私は感じました。

こんなに娘のことを愛している母親が、こんなに母親のことを愛している娘のことを捨てるなんて、一体何があったというの(泣)

悲しい展開を知りながら幸せな描写を読むのはとても苦しかったです………。

そんな二人の生活は、母親が働き始めたことで徐々に崩れていきます。

お母さん、「ネムリヒメグスリ」とか言ってとわに睡眠薬めいたものを飲ませてから、夜働きに出るんですよ(何そのスタイル、大泣)

そんなことを続けて健全な心身を保てるわけもなく、母親は徐々にバランスを崩していきます。

その皺寄せをとわは懸命に引き受けますが、あまりに無理すぎて私の心配がピークに達した頃、ついに母親はとわを残して出て行ってしまいました………。


取り残されたとわのサバイバルパートは壮絶です。

混乱と絶望の中で、それでも一途に母親を思うとわには胸が詰まりました。
 

もしも、また母さんと会えるなら、わたしは夜空の星たちを全部この手でかき集めて、それをつないで母さんの首にプレゼントしたい。

 
こんなの世界で一番きれいな感情じゃん(大泣)

そんなとわの気持ちとは裏腹に、状況は悪化の一途を辿ります。

母親と暮らしていた時から続いていた週に1回の差し入れも徐々に途絶え、家はだんだんゴミ屋敷と化し…。

庭の植物から季節の移り変わりを感じ取るとわの感性を瑞々しく感じる一方で、どのくらい長い間とわが苦境の中にいるのかわからなくて、読んでいてとても不安な気持ちになりました。


結局とわは自分の足でその苦境から抜け出しますが、その後どんな未来が待っていたのかは、ぜひ実際に読んで確かめていただきたいです。

当然ネタバレを控えたい気持ちもありますが、それより何より読めばとっても嬉しくなること間違いなしだからです!!!

とわは新しい人生で素敵な出会いをいくつも果たします。

それは偶然の産物ではなく、とわの感じ方・捉え方・考え方にひねくれたところがないからじゃないかな。

そして、厳しい生い立ちにもかかわらず、そういう心持ちを担保できているのは、幼い頃母親が読み聞かせてくれた物語とそれを愛する気持ちがベースにあるからじゃないかな、と感じました。

お母さんによって損なわれた人生だけど、お母さんからのギフトがあるからこそ、これからもとわは自分で自分の人生を照らして歩んでいけるんだろうな、と思います。

とわの未来がまずます楽しみです。


【追記】

読了後、今度は母親の目線でとわと母親が過ごした日々を読み直してみました。

どうしてもそうしたくなって。

やっぱりお母さん、とわのこと愛してたよね。

でも、後ろ暗い過去を抱えながら外の世界で望まぬ仕事を続け、それが終われば愛する娘の待つ閉じた空間に戻る生活を続けるうちに、

まるで村上春樹作品のヒロインのように、二つの世界に引き裂かれて、壊れて、戻れなくなっちゃったんじゃないかな……。

同じ母親としては、複雑な事情を抱えながら一人ぼっちで娘を育てる苦しさに思いを馳せずにはいられませんでした。

とわへの仕打ちが正当化されるわけではないんだけどね…。